VUCA時代に必要な社内コミュニケーション 〜成長企業に共通する社内報〜
こんにちは。パーパスブランディングコンサルタントの小西です。
最近、弊社ではインターナルPRに関する相談をいただく機会が増えています。
インターナルPR(社内コミュニケーション)は、今、多くの企業で経営陣やマネジャーの頭を悩ませているテーマではないでしょうか。なぜなら今、特に若い人を中心に転職するカルチャーが定着してきているからです。20代は「終身雇用って何?」という感覚かもしれません。
そこで今回はインターナルPRの手段の一つである社内報に注目し、私、小西が審査委員を務める毎年約500作品応募がある「社内報アワード」(*1)で審査した、全国から集まった企業の社内報を通して、企業の成長に欠かせない従業員の方々との社内コミュニケーションのヒントを探っていきたいと思います。
*1:社内報アワード(全国規模の社内報企画コンクール。質だけでなく会社の成長に対する貢献度などが審査され、多彩な経歴と知見を持つ審査員による詳細なフィードバックを受けられる。)
1. 経営陣必読!なぜ転職してしまうのか?を紐解く
「3年目の壁」ともいわれますが、入社して3年目になると、仕事や職場環境に慣れる一方で、それがマンネリに転じ、仕事へのやりがいが感じにくくなったり、冷静に周囲のことが見えてくることで、他社で働く同世代と比較して不安になったり、キャリアパスを考え直す人が多いようです。
一方で、入社以来ずっと仕事や環境、人間関係に慣れず、自分の適性に疑問を持ち続け、キャリアチェンジを図るのも、この3年目に多いといわれています。
1-1. 転職しやすくなった背景
また、従来では、転職の意思がある場合、まずは転職エージェントに登録して紹介してもらうというケースが多かったのですが、現在は転職の意思がない人もエージェントに登録しているのが常識になりつつあり、ダイレクトソーシング(直接アプローチする採用手法)のように、転職意思のない人にもスカウトメールが届く時代です。ビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」はその代表的なツールでしょう。
このように、若い人材が今の仕事や環境、自分自身に満足がいかなくなったとき、割とハードル低く転職ができるようになったのです。
1-2. 本音の転職理由で多かったもの
退職届に本当の理由を赤裸々に綴ることはなく、大抵、「一身上の都合」とする人がほとんどでしょう。マイナビ「キャリアリサーチLab」によれば、転職者の転職理由で最も多かったのが「給与が低かった」。次いで「仕事内容に不満があった」「会社の将来性、安定性に不安があった」と続きます(*2)。
お給料面は会社としてすぐに対処するのは難しいかもしれませんが、働く環境や会社の将来の期待感に理解を持ってもらうと、お金だけではないモチベーションを得られるのではないでしょうか。
また、この調査結果での転職理由には直接、「コミュニケーション」とは書かれていませんが、「会社の将来性や安定性」といった点はコミュニケーションが鍵になりそうです。
加えて、転職者(求職者)が重視していることの一つに、その企業の「パーパス」が影響していることも無視できません。以前の記事(*3)でも書きましたが、ウォンテッドリー株式会社の調査では、給与よりもパーパスを重視して転職したことがある人は43%に上り、今後そうすることがあると思う人は63%という結果が出ています。
このような点からも、社内外でパーパスを基軸としたコミュニケーションをどれだけしているかが重要になってくるでしょう。
*2出典:マイナビ「キャリアリサーチLab」https://career-research.mynavi.jp/column/20240329_72338/
*3:関連記事「パーパスブランディングを失敗させない3つのポイント」(https://www.astorypr.com/news-all/3-key-points-of-fail-proof-purpose-branding )
2. 企業の社内報に共通する3つのコミュニケーション
それでは先日審査を終えたばかりの社内報アワードに全国から集まった「社内報」や弊社が支援する企業のなかから、成長する企業に共通する3つの要素についてご紹介していきます。
2-1. 共通点その1「トップがコミットしている」
個人的には、社内報は企業のトップである社長が編集長であってもおかしくないと思っています。実はトップが積極的に社内報に参加している企業は成長しているんです。
年間の節目節目に、例えば年頭所感などで組織の代表がメッセージを社内報等で発信するケースは多く見受けられますが、もっと進んだ企業だと、社長自ら現場に潜入して、社員に直接インタビューするなど、現場をご自身がレポートしている動画(ウェブ社内報のコンテンツ)もありました。
またほかの事例では、社長が座談会を開き、社長自身がファシリテーターとなってゲストとして現場の従業員を招いて、「現場の生の声」を社長自ら質問したり拾ったりするなどちょっとしたバラエティ番組のように見応えのあるコンテンツとして成立しているものもありました。
さらに別の事例では、「自分のパーパスやビジョンを作りましょう」という社内企画において、トップ自らが手本となって”サンプル”を提示していた企業もあります。こういった企画は社員のみが行う例はあるのですが、企業のトップ自ら社員と同じ行動をする(コミットする)という点で、社員に「自分たちもちゃんとやらねば」という気持ちに誘導できます。
このようにトップがコミットしている会社は決算資料を拝見していても、コミュニケーションが成長に効いているのではと想像できます。社員も会社にエンゲージメントを高く持つことができ、「会社に貢献したい」というオーナーシップをもって行動することを促せるのではないでしょうか。
2-2. 共通点その2「パーパス・ビジョンの浸透に真剣に取り組んでいる」
社内報でも日常業務でも、社員が誇りに思えるような共感できるエピソードや、お客さまからどんな評価(リアルな声)をもらっているかを共有することは非常に有効です。そこで”提灯記事”のような良いことばかりではなく、“リアル”な声を社内で共有できていると、「自分たちは会社のパーパスやビジョンを達成しようと頑張っているけれど、まだまだ足りないのかもしれない」というような自己研鑽の発想が生まれるコミュニケーションやジブンゴトにしていける仕組みになり会社の成長につながっていくでしょう。
このような社内報では、会社が世の中に提供している価値観や行動規範など社内で大事にしていること、また、社風や働き方といった内容に共感できる、パーパスやビジョンが基軸になっています。そのような価値観を感じられるコンテンツを発信できている会社は第三者見ても安心できます。皆さんが社員一丸となっていることがイメージできからです。
このように、パーパスやビジョンから逆算したコミュニケーションを真剣に取り組んでいる企業は成功につながるはずです。
2-3. 共通点その3「チームを評価するようなコミュニケーション」
成長する会社は”チーム”で仕事に取り組んでいます。
私がアマゾンジャパンの広報本部長だった時代、アマゾンが日本に進出し、成長できたのはチーム力でした。組織のチーム力を高めてきたからこそ成長できたと思っています(アマゾンのチームマネジメントの詳細については弊著『amazonのすごいマネジメント』を御覧ください)。
どの企業にも個々に優れた人材はいらっしゃるでしょう。ただ、スーパー社員一人に頼り切るのではなく、チーム力を高めて、皆で力を発揮して成功できる仕組みがあると、企業の推進力はとても大きなものになります。チームで取り組まれているプロジェクトや組織を見ると、この会社は必ず成功するだろうなと思えるのです。
視点を変えてみましょう。スポーツの世界でもチーム力が大事ですよね。例えば男子バスケットボール。東京2020オリンピックでは、八村塁選手や渡邊雄太選手のようなスター選手がいても一試合も勝てませんでした。パリ2024オリンピック男子日本代表のチームキャプテンである富樫勇樹氏は2人に頼っているだけではは前回(東京五輪)のときと同じ。自分たちはほかのチームメンバーも一緒に強くなっていかないとチーム力を上げることができない」というような内容をインタビューに応えています。
このように、スーパースターに頼るだけでは強くなるとは限らないのです。
且つ、スーパースターがいなくなった途端にチームが崩壊してしまうような組織なら作らない方がいいでしょう。チーム力が大事であることを熟知したコミュニケーションをしている企業は成長が見込めるだけでなく、アジリティ(*4)が高く、VUCA(*5)時代において優位に働くはずです。
*4:アジリティ(Agility、機敏性を意味し、ビジネスでは経営や組織運営が状況変化に応じて素早く対応できることを指す。予測不能なVUCAの時代といわれる現代において注目されている資質の一つ)
*5:VUCA(「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」を意味する造語。不確実で将来の予測が立てにくい時代の意)
3. VUCAの今、社内コミュニケーションで取り除くべき3つの「ふ」
私たちは先行き不透明な時代を生きています。だからこそ、社員が不安になって転職してしまうのも無理はありません。このようなVUCA時代においても、社員が安心して会社に勤めていられる鍵が3つの「ふ」です。
①【不安】
「うちの会社は何を目指しているのか分からない…」
「業績不振が続いているけど、今後どうなるのだろう…」
「人がどんどん辞めていく…」
というような”不安”の中で、さらに社内コミュニケションがないと、社員は増々不安になってしまいます。
先ずはマネジメント層によって「不安にさせていることが何か」を突き詰めていく必要があります。社内で情報収集をしながら、社員が抱えている不安要素に対して、新しい会社のビジョンや目標、トップは現在どんな課題感を持っているのか、そしてその課題感に対して、どういう方向性で取り組もうとしているのか、さらに、社員にどのように取り組んで欲しいと思っているのか、といったコミュニケーションを”繰り返していく”ことが、社員の不安要素を払拭していけるきっかけになります。
②【不満】
個人的な上司への不満や人間関係の不満、環境の不満など、組織にいれば様々な”不満”は誰にでも持ち得ると思いますが、先ず広報ができることとして、共通の不満(例:「物価高で他社は給料を上げているのに自社は上げてくれない」など)に対処(コミュニケーション)していく必要があるでしょう。
会社が沈黙したままであれば、社員は様々な憶測を立て「ここにいてもどうせ給料上がらないよね」とネガティブになってしまい、大切な人材の流出は避けられないでしょう。もちろん会社の考えありきなのですが、その考えを丁寧に伝えていくコミュニケーションが大切です。
③【不信感】
昨今では色々な事件・事故が起こり、内部告発の報道も多くなりました。会社に”不信感”があると、会社そのものもリスクにさらされますし、不信感という心の状態を社員が持ってしまうこと自体がリスクになります。広報はそういうリスクを察知し、理解している部署でもあると思うので、社内にくすぶる不信感をいち早く察知し、社内コミュニケーションを最大活用して、いかに軽減していくかをトップと常に連携しながら取り組むべきです。
以上3つの「ふ」を取り除いていくようなコミュニケーションを、先手を打っていくような会社であれば、仮に経営状況が悪かったとしても、社員も理解できるはずです。自分たちの不満に気づいて会社が働きかけてくれているという姿勢が大事なのです。企業のトップをはじめとした経営者の皆様やマネジメント層、そして広報担当の皆様は、是非この3つの「ふ」を取り除くコミュニケーションを意識してみてください。
そして、課題改善の施策と共に、今回ご紹介したような社内コミュニケーションを組み立てていけば、社員の皆さんも徐々に「ジブンゴト」に捉えてくれるでしょう。そして、「この会社を守らないといけない」と思ってもらえるようになれば、会社の改善施策も成功していくはずです。
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