広告賞受賞BtoB企業に学ぶ!未来をリードする企業のパーパス戦略
企業広告は単なる製品やサービスの宣伝にとどまらず、社会課題に向き合う企業のパーパス(存在意義)を体現する重要な機会となっています。『広告主動態調査2022年版(*1)』によると、「今後企業が広告で訴求したい内容」 についての調査で、「新製品・新戦略商品の訴求」「企業理念やブランドの世界観の訴求」の次に「パーパスの訴求」が上がっていました。
パーパス・ブランディングのコンサルティングサービスを提供するAStoryが注目したのは、一般社団法人日本BtoB広告協会が先日発表した、「第45回日本BtoB広告賞」の各受賞企業の広告です。本記事では、日本BtoB広告賞(*2)受賞作品から学ぶ、社会課題に正面から取り組む先進企業の広告戦略を紐解きます。
*1:出典「日経広告研究所」(https://www.nikkei-koken.gr.jp/publication/2922/)
*2:一般社団法人 日本BtoB広告協会主催のBtoB広告作品のコンテスト(https://www.bbaa.or.jp/jigyo/sogo)
1. 広告でパーパスを体現!社会課題に取り組む企業の成功事例
1-1. ニチレキ株式会社
舗装材料のトップメーカーとして開発・販売から道路舗装工事を一気通貫行っていて、道というインフラを通して社会に貢献することをミッションとしている企業です。
新聞広告部門で「経済産業大臣賞」を受賞したこちらの広告は、2023年7⽉25⽇と8⽉2⽇の2週にわたって⽇本経済新聞の朝刊に掲載したシリーズ広告で、その内容は、この会社のミッション(パーパス)に則った広告展開をしていることが伺えます。つまり、「自社のサービスを知ってください」という広告ではなく、「自分たちが何のために事業を推進しているのか?」を訴求していきたいという思いが広告に込められているのです。言い換えれば、短期的な訴求ではなく、長期的に「何を成し遂げていくか」ということが読者に伝わるコンテンツになっています。
参考:「第45回 2024 ⽇本BtoB広告賞 最優秀賞「経済産業⼤⾂賞」受賞のお知らせ」(ニチレキ株式会社)
ちなみに、パーパス経営をしている会社とそうでない会社とでは、成長スピードに3倍の差が出るともいわれていますが、ニチレキ株式会社の時価総額は10年前に比べると2倍以上になっています。
1-2. 株式会社クラッシー
企業カタログ部門で審査委員会特別賞を受賞したこの会社は生活総合支援企業として、家事代行や英語保育サービスなどを提供する徳島県の企業です。公式サイトには、ミッション(パーパス)として「くらしを整え、世界を変える。」とあり、それに関連する事業を多角的に提供していらっしゃいます。
受賞したこちらの企業カタログ(新たな保育概念を伝える「ステラプリスクールブランドブック」というもの)のファーストメッセージには、「世界で生きる人を、 育てる。」とあります。公式サイトを拝見すると、この会社だからこそ、このようなブランドブックを作ることになったのだということが想像できます。
参考:https://www.stellanet.com/preschool (株式会社クラッシー・保育サービス「STELLA」)https://www.classy-concierge.com/company/ (株式会社クラッシー)
こちらのブランドブックを拝見すると、モノやサービスを、ただ「知ってほしい」という考えではなく、ブランドブックを見た読み手が考えさせられるような”きっかけ”をつくるように仕掛けられているのが分かります。つまり、読み手の「行動変容」を促す、お手本のようなブランドブックという印象を受けました。
1-3. パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
3つめはウェブサイト<イベントPR>の部で審査委員会特別賞を受賞したパナソニック株式会社のグループ会社であるエレクトリックワークス社のウェブサイトです。
※本部門にはほかに、<企業PR><製品PR><新卒採用><キャリア採用><学校案内>とあり、<イベントPR>は企画コンテンツものなどの特設サイトが該当しているようです。
参考:https://www2.panasonic.biz/jp/terasu/skill/dictionary/
受賞したサイトは、エレクトリックワークス社が電気工事業界向けに発信しているサポートサイトとなっており、ページの中身は「職人用語」「電気工事用語」「トレンド用語」などで構成された、BtoBならではの課題を解決するものになっています。
このサイトの素晴らしいと感じる点は、難しい業界用語におけるコミュニケーション課題を解決するページになっているということです。なぜなら、社内には様々なバックグラウンドの従業員がいますし、入社する人材が必ずしも業界に精通した人というわけではないなかで活躍してもらうためのツールとして役立っているからです。
また、業界の人ではなくても、この会社とお付き合いがある企業や社員のご家族などに業界を知り、理解してもらい、そこでコミュニケーションが発展していくような意図があるとすれば、それは非常に効果を発揮するものになっていると思います。
さらに「トレンド用語」は、ビジネスだけでなくPR的な観点においても有用です。常に自分たちが、今だからこそ、どんな社会課題解決をしようとしているのかという点で、潮流を常にキャッチする必要がありますし、特に対外的にコミュニケーションをする場合、新しい動きに対して、自社の存在意義や貢献エリアなどを絡めたコミュニケーションができると、より社会と交われるからです。
まさにそれを企業として実践している、ありそうでなかなかない素晴らしい取り組みだと思います。
1-4. 株式会社イトーキ
4つめは新聞広告部門で銀賞を受賞した株式会社イトーキの広告です。
株式会社イトーキのミッションは「明日の「働く」を、デザインする。」というもので、広告はこれを体現するようなものでした。これは2023年12月18日から12月22日までの5日間連続で日本経済新聞の朝刊等に掲載された「イトーキの顔」をテーマとしたシリーズ広告です。
サブタイトルには「未来をつくるのは、あきらめない人。」とあり、そのシリーズの一つに「オフィス嫌いがつくるオフィス。」という意外性のあるキャッチコピーで、さらに広告内容を惹きつけるものになっています。
内容はまさにパーパスとシンクロするようになっています。「明日の「働く」を、デザインする。」を具現化しようと取り組んでいる社員たちを紹介しながら、会社のパーパス(存在意義)を想起させるようなメッセージとエピソードが広告の中に込められていて、会社が本気で「明日の「働く」を、デザインする。」に取り組んでいることが伝わる広告です。
参考:「社員にフォーカスを当てた広告「イトーキの顔」が、「日本BtoB広告賞」新聞部門で銀賞を受賞」(株式会社イトーキ)
株式会社イトーキもニチレキ株式会社同様、10年前と比べると時価総額は約2倍に成長しています。これはまさにパーパスを実践してきた証ではないでしょうか。
「パーパス」「パーパス」と声高に言いつつも、つい目先の売上・利益にとらわれ過ぎてしまい、パーパスを社内外に浸透させることに時間を費やさない企業は多いのですが、ソニー株式会社などパーパスが浸透し、社内外に支持されている企業は長期的に見ると同業他社より成長しています。
2. 広告にもパーパスの波、これからの広告とは
株式会社電通の福永琢磨氏による、広告に求められる本質的な意義をまとめた論文『広告のパーパスとは何か 〜「主体性」こそが幸福への羅針盤となる時代へ〜』は、個人的にとても感銘を受けました。こちらの論文で福永氏が言及していることと、先述した各広告作品には整合性を感じます。
福永氏は論文で広告の存在意義(パーパス)も変わってきたと評価しています。要約すると、「消費社会の活性化と経済的豊かさをもたらすことが従来の広告の存在意義だったが、これからは生活者を社会変革の主役にすることが広告の存在意義になり、広告は、生活者に思考を促し、自分で考え行動するサイクルを生み出すことが重要になる。(*3)」と考察されています。
つまり、広告は、一昔前は新しいモノや情報を得るための役割だったが、これからは消費者が広告を通じて色々考え、主体的な選択で社会をどういうふうに変えていくのかを伝える役割を担っていくと仰っています。
*3:福永琢磨『広告のパーパスとは何か 〜「主体性」こそが幸福への羅針盤となる時代へ〜』日本広告業協会「第52回懸賞論文 入賞・入選作品集」P.7-16
今回の広告賞の受賞作品を拝見していると、働き方や教育、生活など未来の方向性、そして、どのように自身の満足につながっていくのか、などを考えるきっかけになっているように思います。様々なBtoB事業のなかには、社会に関連する課題があるはずです。それを企業がどのように取り組んで解決しようとしているのかということを広告で提示しながら、それを見た方も賛同したり、ディスカッションをしたりといったきっかけづくりになるのが、これからの広告のあり方なのだと思います。
3. まとめ
VUCA(*4)の時代においてパーパスを訴求する新しい広告への期待はますます高まっています。
今後も多くの企業が広告出稿をしていくと思いますが、最近はモノだけ売りたいという広告は減りつつあります。
長期的に人や社会が満たされるような世界観というものを描きながら、広告だけでなく、PRも含めて展開していく必要がありそうです。
*4:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の4つの単語の頭文字をとった造語で、将来の予測が困難な状態を指す言葉
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