ビッグモーター不正問題から目をそらしてはいけない企業の教訓

 
頭を抱えて悩む部下を見つめる上司

中古車販売大手である株式会社ビッグモーター(以下ビッグモーター)の一連のニュースが世間を騒がせています。PRの視点では、7月25日の経営陣の会見は、従業員を大切にしている企業とは思えない内容で社内外のコミュニケーションを軽視している印象を受けました。今回はこの一件を反面教師として「企業の組織力」向上の要となるものをテーマにお話したいと思います。

 
 

ビッグモーターにはパーパスもビジョンもなかった

今回のニュースをきっかけに、ビッグモーター社の公式サイトを拝見しましたが、そもそもこの会社にはパーパス(社会における企業の存在意義)もビジョン(企業が目指す姿)も明文化したものは見当たりませんでした。
自分たちの経営姿勢やビジョン、存在意義といったメッセージはなく、支店の開店情報ばかりが目立ちます。

従業員は企業の存在意義や方向性も共有されない中でただ単にノルマ達成だけを求められてしまったようにみえます。今回のような不祥事はそのような企業風土から生じたものと推測します。

企業が社会との信頼関係を構築し続けるためには、会社のビジョンやパーパス、そしてそのための行動指針を明文化し社内に浸透させることが肝要です。今回の事象は、その観点であらためて自社を精査する良い機会だと思います。

 

ビッグモーター問題を自社に活かすには

このビッグモーター問題を反面教師として、社会での存在意義が曖昧、目指す方向が抽象的、または行動指針がない会社が活かせる点は、それらを早急に明確にしていくことです。

AStoryでは最近、「強い組織をどう創るか」「多様な組織をどう推進していくか」といったテーマの講演依頼が増えています。自分たちの目指す方向はあっても、それが社内に浸透しきれていないことが課題になっているように思います。そのため、従業員に自分事として共感・浸透させていくにはどうすべきか、結果、どうすれば組織が強くなるのかということを真剣に考えている経営者の方々が増えているのではないかと思います。

そこで今回は、私がかつてアマゾン・ジャパン(以下アマゾン)で経験したことを踏まえて「強い組織に必要なもの」の要素の一つをご紹介したいと思います。
ご留意いただきたいのは、これがアマゾンのような大企業だからできたことではないということです。アマゾンがまだ小規模だったスタートアップの時代から取り組んでいたことだとご理解ください。

 

強い組織作りのために必要なもの

強い組織作りには

「パーパス」

「ビジョン」

「ミッション」

「行動指針」

が明文化されていること、そして全社員に浸透していることは欠かせません。
その上で、「マネージャー」の役割は大変重要です。アマゾンでもマネージャーの育成に注力いました。

 

マネージャーを育成する

今後さらに労働人口が減っていく中で新たな人材を確保し続けることは困難になるでしょう。そのため、どの企業にも今いる全ての人材を戦力化していくことが求められます。
全員を戦略化できれば投資したリソースをフル活用できる強い組織になります。

そしてこれからは「チーム力」で成長する時代といわれています。限られた優秀な人だけに頼るのではなくチームで成功することで組織の強化に繋がり、会社が持続的に成長するという構図が見えてきます。
つまり「マネージャー」の力が肝になるのです。

そのためにはマネージャーが遂行すべき2つのミッションが重要になります。

 

マネージャーのミッションとは

マネージャーには「部下のちからを最大限に発揮させる環境作り」と「正しい目標設定をする」という2つの大きなミッションがあります。今回は1つめの「部下のちからを最大限に発揮させる環境作り」について深く掘り下げてみましょう。

  1. 部下とのコミュニケーション

    業務連絡用にLINEを活用する企業は多いようですが、ビッグモーターではパワハラの温床となっていたと報道されています。社員にプレッシャーを与え、ノルマ非達成の社員を公然と罵倒する…それで人が高い士気を持ち成長するのかは甚だ疑問です。

    本来ならば、マネージャーは部下の育成のために時間を使っていくことが一番大事なのです。

    「部下のために時間を使う」とは、日常の”報連相”だけではありません。アマゾンでは1on1(ワンオンワン)ミーティングという名称の、上司が直属の部下とコミュニケーションする場を週に1回約30分設けていました。
    ここでは部下が困っていることをいち早く解決するために育成しながらサポートする時間となっており、部下を責めたり行動をチェックするような姿勢で臨まないことが鉄則です。


    例えば、

    ・なぜ目標が達成できないか

    ・今の一番の課題はどういうところにあるのか

    といったことをとことん深掘りして、部下と一緒に「障壁になっているもの」を見つけていきます。


    次に、

    ・そこで上司(マネージャー)にしてほしいこと(サポート)は何なのか

    ・どうやったらその障壁を取り除くことができるのか

    といったことをまずは部下自身に考えてもらい、上司はひたすら壁打ち相手となります。

    部下が前に進めるように良質な質問をしながら考えさせるヒントを示し、モチベーションを上げ、新しいことにチャレンジできるよう道筋を作るのです。
    部下はきっと、上司は常にサポートをしてくれる信頼できる人だと思うようになるはずです。


    部下を叱責してばかりの方は、部下のやる気を引き出すコミュニケーションに時間を費やしてみましょう。

  2. 失敗の報告がしやすい環境をつくる

    ビッグモーターの件では内部告発に端を発し、損保側の調査等から次々と不祥事が浮き彫りとなりました。
    このような事態に陥ったのは、「失敗の報告がしやすい環境」ではなかったからだと推測できます。
    従業員は罵倒されることを恐れ都合の悪いことは報告せず、手段はともあれどうにかノルマだけ達成しようとやってきたから、隠蔽体質になってしまったと思われます。

    不正行為はしてはいけないと行動指針をもとに指導し、万が一発覚したらすぐに対処するのがマネージャーのすべきことでしょう。組織におけるマネージャーの存在はリスク管理においても非常に重要なのです。

    失敗の報告が上がってこない会社、いわゆる隠蔽体質だったり、事なかれ主義の会社は、今後ますます社会との信頼構築に課題を抱えるでしょう。昨年の三菱電機の品質不正問題は記憶に新しいと思いますが、なかなか改善内容が見えず1年以上も隠蔽体質について報道が続いていることが影響しているといえます。


    失敗の報告が上がって来やすい環境を作ると何がいいのか?


    早く火消しできる(不祥事が起こりにくい組織体質ができる)

    例えばアマゾンでは失敗を報告してくる人を高く評価します。
    報告を受けると、先ずその人を褒めるのです。そしてすぐに失敗した本人と上司、もしくはそのチームで解決策について協議し早急に対処します。
    また、似たような失敗の可能性がある別の部署に、その解決方法も含め共有します。これは組織の中で同じ失敗を増やさないために行っているものです。
    もちろんアマゾンにも課題がまったくないわけではありませんが、ビッグモーターのような不祥事は起こりにくい環境になっています。

    ・不祥事の種をつくらない

    失敗した事自体は残念かもしれませんが、それを迅速に伝え、報告したことは評価する。
    そうすることで失敗したときは会社が一丸となって迅速に解決しようというアクションができる。これにより、不祥事を起こしにくい体質になります。
    アマゾンでは創業者のジェフ・ベゾスが「失敗と成功は双子」と言っていますが、特にパイオニアとして革新を起こし続ける企業にとって成功のためには失敗のプロセスは欠かせないということを意味しています。

  3. 部下の評価を上げる努力をする


    アマゾンではマネージャーの大きな役割の一つに部下の評価を上げる努力をすることが含まれています。例えば、ビッグモーターにアマゾンで求められるようなマネージャーがいたとします。そのマネージャーが担当する店舗で部下がお客様に喜んでいただける工夫を凝らし非常に高いゴールを達成したとしましょう。
    そのマネージャーは、その部下(チームリーダーもしくは工場長など)が素晴らしい活躍をしたんですよということを、組織の上層部や他部署に積極的に情報共有します。

    部下が成長しながら素晴らしい成果を上げられるように壁打ち相手になりながらサポートし、部下の手柄を自分の手柄にしないのです。
    アマゾンでは部下の手柄を自分の手柄にする人は部下の士気を下げ、チーム力を上げられない”無能”だと思われます。

    部下の評価を上げることは、その上司の評価にも繋がります。

    企業にしてみれば、そんな優秀な部下を育てられるのなら、もっと大きな組織で優秀な人材をどんどん増やして欲しいという発想になるわけです。
    そのため上司はより出世したければ自然と一生懸命に自分の部下を育てるサポートをするようになりますし、このようなカルチャーができていると好循環が生まれます。
    なぜなら、部下は上司が適切に評価してくれるという安心感を抱くことができるだけでなく、上層部や他の人にも自分の成果を理解されることでよりやる気になるからです。
    上司自身も組織力を上げられる人だと上層部に評価されてハッピーです。
    会社にとってもそのような上司や部下が組織力を上げてくれることで、持続的に成果を上げ会社の目標にも貢献してくれるためポジティブな循環が生まれます。

  4. 部下のワークライフバランスを確保する

    過度な残業をしている部下に対して、「残業を減らせ」というお達しだけではワークライフバランスにはつながりません。仕事量は変わらないのに仕事をする時間を減らせというお達しだけというシチュエーションはありがちな話ではないでしょうか。

    本当の意味でワークライフバランスの改善につなげるには?

    過度な残業を建設的に減らすには、上司は部下と以下のようなコミュニケーションを継続的に行うことが重要です。

    ・過度な残業になってしまう具体的な原因

    ・原因の解決方法


    アマゾンでは「ワークライフハーモニー」といって、仕事と私生活をセットとして、「どちらかが崩れればもう一方も崩れてしまうのでどちらも充実すべき」という考え方を持っています。

    アマゾンのマネージャーは部下が仕事と私生活のどちらも上手くいっているかを気遣い、関心を持ちながらコミュニケーションをして、いかにワークライフバランスを保ってもらえるのかに注力しているのです。

    もちろん、いくら上司だからといって、部下が自分の私生活のことを上司に相談できるようになるには「心理的安全性(*1)」を保てるかといった上司に対する信頼感が必要です。決して強要するものではありません。

    そして部下が、私生活の悩みが仕事に影響していることを打ち明けてくれたとしても、上司は私生活のことについて直接解決することは難しいですが、「状況を理解する」「気にかける」ことが肝要なのです。

    コミュニケーションのなかで生まれる信頼関係を上司とそのチームの部下たちと築いていくことが、安心して挑戦できる環境づくりにつながり、一人ひとりを戦力化することが可能になります。
    だからマネージャーの存在は重要です。

    原因を把握せずにただ「減らせ」の一点張りでは部下との信頼関係は生まれません。

    *1:心理的安全性(職場などで非難や拒絶の不安がなく、安心して自分の意見を発言できる環境のこと)

 

まとめ

今回のビッグモーターの件は、他社にとっても、会社の人材をどう思っているのか、人をどのように育て、組織として成長させたいのかを考えるきっかけ、教訓になったと思います。

パーパスやビジョンがあることは大前提でそこから逆算した組織のあり方が必要ですが、マネージャーがいかに部下のために時間を使えるかが、今後、組織を強くできるかできないかに大いに関わってくるでしょう。

企業経営を担う皆様にはおいては、人材をコストではなく投資としてとらえ、マネージャーのあり方を変えていくことから始めてみませんか。

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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