フェイクニュースを生まない広報術

 

昨今のニュースはその真贋を見極めるのが難しくなっています。最近も、KDDIの通信障害によって多くのマスメディアで「自動運転が危険だ」という飛躍した誤解を招く解釈が飛び交いました。そのような間違った情報が発信されないようにするためにも、広報の姿勢次第で改善できることはあります。

 
 

通信障害になると本当に自動運転車は危険?

代表(小西)が尊敬しているジャーナリストの安井孝之氏が、先日、プレジデントオンラインで「自動運転に通信障害が起きても命に関わる障害は起こりえない」という見解の記事を公開しました。

NHKも「複数の回線が必要」と報じたが…「KDDIの通信障害で自動運転が危険」というマスコミの過ちを正す

※一部会員専用記事となっています

錚々たる見識のあるコメンテーターらが一様に発言した「通信障害になると自動運転は危険」という見解を訂正した記事なのですが、安井氏の記事によると、今の自動運転はAIが通信ネットワークと繋がって車を制御しているのではなく、AIは車に搭載されていて車の中で完結するような仕組みになっていると解説されています。

「自動運転は通信に繋げてAIを起動させるシステムではない。」

つまり、メディアで飛び交っていた憶測は現時点で技術上ありえないということになります。
安井氏は各メーカーに取材してきちんと「裏取り」した上で記事化しています。

この記事が素晴らしいのは、間違って解釈されてしまった情報(フェイクニュース)の事実を丁寧に報道してくれている点です。

もしこの記事がなければ、私達はテレビや新聞で「通信障害があると自動運転は機能しなくなる。」「自動運転は危ない」などといった間違った情報や飛躍した表現で不安を煽られ、自動運転の技術開発によって得られるはずの社会課題の解決が遅れてしまう可能性もあるわけです。

 

フェイクニュースにならないよう広報ができること

では、フェイクニュースに対して広報はどのような対応ができるでしょうか。

情報提供の当事者である広報の人たちにも、フェイクニュースにならないよう日頃からできることがあります。
今回のKDDIの件で言えば、自動運転の開発に関わる企業が主体となって情報提供をしていくことです。

例えば、「通信障害になると自動運転は危険というような意見がありますが、事実は○○です。」といった具合です。

もし実名を出して事実を言えない事情があれば、「KDDIの通信障害」という特定のトピックスではなく、「通信障害と自動運転の関係」という切り口で情報発信することも手段の一つになり得ます。

大事なことは、フェイクニュースを防ぐために広報側でも努力できる観点があるということです。

影響力の強いコメンテーターやベテランの編集委員、解説委員の方々によって発信されると読者や視聴者は信じてしまうでしょう。その意味では、広報は現場の担当記者だけでなく、そういう立場の方々にも能動的に情報提供するべきでしょう。

ベンチャーやスタートアップのPR担当者の中には、現場の記者の方々にしか情報を提供していないことが多いかもしれませんが、記者たちのなかには、現場で取材する記者だけでなく、潮流の要点をまとめ、分析をするような編集委員や解説委員もいるのです。

彼等の情報範囲は幅広く、様々な業界の、さらにそのなかの各社における詳細を常に把握している訳ではないと思います。だからこそ、そういう人たちにも現場記者と同様に情報提供していくことが広報として大事です。

 

メディアが評価する優秀なPRとは

間違った情報で報道されないためにはメディアの様々な記者との良好な関係構築が重要なわけですが、そのためにも広報側で備えておかなければならない、メディア側が評価する企業努力が必要になります。

様々な媒体の記者の方々にお話を伺うと、優秀な広報には2つの特徴があります。

(1)  レスが早いこと

広報担当者がその企業の経営に精通していて、発言して良いことと悪いことの判断が瞬時につくことは必須でしょう。
これは、経営陣とホットラインで繋がっており、メディアからの至急の問い合わせにタイムリーに応えられること、つまり社会とコミュニケーションしていくことに会社としてコミットしていることの表れを意味します。
記者達はこのような深い意味で、「レスが早い」広報を評価しているのです。

(2)  俯瞰した情報を提供できること

自社の情報ばかりを話す広報ではその価値を理解してもらうことはできません。特に新人PRは宣伝めいた話ばかりしてしまう傾向がありますが、どれだけ「客観性」の高い情報をメディアに伝えることができるかがポイントになります。
現場で担当するマスコミの記者は1年から2年(それより短い期間も有り)という短いスパンで担当が代わります。そのような記者にとって、例えばIT業界から食品業界に担当が変わった場合、新担当となった記者は先ずどこに情報を取りに行くでしょうか?

もちろん大手で影響力の高い企業が優先されることは否めませんが、そのなかでも、自社を含めその業界について「俯瞰した情報」をレクチャーしてくれる企業の広報を優先して話を聞きに行くのです。

なぜなら記者は業界全体の動向を迅速に把握することが必要ですが、常日頃から多忙なため、特に新たに担当となった業界の資料は一から集めるのは大変な作業です。それを企業からもらえると記者の仕事が捗ることになり非常に重宝がられるのです。実際、私が企業の広報で対応していたときも「前任から紹介されました」と新しい担当者からご連絡いただくことが多々ありました。その際は、俯瞰した情報提供に努めました。

例えば加工食品メーカーの広報であれば、

「加工食品業界の市場規模や業界構図」
「加工食品各社の特徴や課題」

というような情報を自社も含め客観的に提供してくれるような広報は情報提供能力が高いと評価してくれるでしょう。

 

記者との良好な関係構築のために

記者は忙しくてコンタクトしてもなかなか会えず、取材誘致することが大変難しいですが、この2つの企業努力を続けていれば、記者も気づいてくれます。そこから良好な関係が築けるようになるのです。

だからこそ、広報は自社の情報ばかりではなく、

「業界動向」
「業界ポジショニングマップ」
「主要プレーヤーの比較表」
「業界年表」

などを用いてレクチャーするなど、自社のことを話すにしても業界のポジショニングといった全体像を話し、恣意的なことではなく、またバイアスをかけずに客観性の高い情報を日頃から準備をしておくことが重要です。

ただプレスリリースを一斉配信し続けているだけでは、記者はなかなか取材してくれません。
メディアの方々が活動しやすい情報を提供していくことが良いPR活動に繋がっていくのです。

今回の安井氏の記事では、自動運転車を手掛けるトヨタやホンダがどのような広報対応をしたのかは伺い知れませんでした。各社の公式サイトを確認しても、特に通信障害発生時における自動運転についての言及はされていないようです。

トヨタは安全に関するページ「トヨタの安全技術」を開設しているので、一般消費者の学びや正しい情報の獲得に繋がるような「通信障害と自動運転の関係」に関するコンテンツの展開を期待したいところです。

「通信障害時に自動運転車に乗っていると危険にさらされてしまうのだ」という間違った情報のままで世間の見識が止まっていては、企業としても遺憾なことでしょう。今回のKDDIにまつわる自動運転の事案は、説明責任を果たし続けることが、結果、企業や業界を守ることになるという教訓になりました。

 

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